令和4年度税制改正

 

令和3年12月10日に与党から令和4年度税制改正大綱が公表され、令和4年1月25日に税制改正法律案が閣議決定・国会に提出されました。今後、3月末に税制改正法律案が成立・公布され、4月1日に法律が施行される予定です。

 

令和4年度税制改正大綱の主要項目

税目 項目 概要
所得税 上場株式等の配当所得の「大口株式等」要件の見直し 個人と「同族会社(50%超の株式保有)」との株式等保有割合の合計が3%以上の場合に、配当所得が総合課税の対象になる。
【適用時期】令和5年10月1日以後に支払を受けるべき上場株式等の配当等について適用
住宅ローン控除の見直し 令和4年から令和7年までの間に居住の用に供した場合の、住宅借入金の借入限度額・控除率(0.7%)・控除期間が見直される。また、令和4年以後に居住の用に供した適用対象者の所得要件が2,000万以下に引き下げられる。
住宅ローン控除の手続の簡素化 e-Taxの利便性を向上させる取組みを進める観点から、住宅ローン控除の適用にあたり必要となる「住宅ローンの年末残高証明書」の納税者による税務署・勤務先への提出が不要とされる。
【適用時期】居住年が令和5年以後である者が、令和6年以後に行う確定申告・年末調整について適用
資産税 住宅取得等資金贈与非課税制度の縮減 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度について、格差の固定化防止等の観点から、非課税限度額が1,000万円(省エネ等住宅以外は500万)に引き下げられた上で、令和5年12月31日まで2年延長される。
住宅税制の優遇措置の延長 居住用財産の譲渡に関する特例措置や中古住宅のリフォーム減税等の住宅税制について、一部要件を加えた上で、令和5年12月31日まで2年延長される。
住宅用家屋の所有権移転登記に対する登録免許税の軽減税率や不動産譲渡に関する契約書等に係る印紙税の特例等の住宅税制について、一部要件を変更した上で、令和6年12月31日まで2年延長される。
土地に係る固定資産税の負担調整措置の緩和 景気回復に万全を期すため、土地に係る固定資産税の負担調整措置について、激変緩和の観点から、令和4年度に限り、商業地等(負担水準60%未満)に係る課税標準額の上昇幅を「評価額×2.5%(現行:5%)」に引き下げ、税負担増の緩和が図られる。 ※都市計画税も同様
法人版事業承継税制の確認申請期限の延長 新型コロナウイルス感染症の影響により計画策定に時間を要する場合もあるため、法人版事業承継税制の特例承認計画の提出期限が令和6年3月31日まで1年延長される。
財産債務調書制度の提出義務者の拡大 適正な課税を確保する観点から、財産債務調書の提出義務者に特に高額な資産保有者(総資産10億円以上)が追加される。また、提出義務者の事務負担軽減の観点から提出期限が緩和(翌6月30日)され、記載省略の範囲も拡大(取得価額300万円未満の家庭用動産)される。
【適用時期】令和5年分以後の財産債務調書
法人税 中小企業の所得拡大促進税制の拡充 税額控除率の上乗せ措置(従前の+10%部分)の見直しを行うと共に、最大税額控除額を給与等支給増加額の40%へと拡充した上で、令和6年3月31日まで1年延長される。
人材確保等促進税制の改組 適用要件の対象を、新規雇用者の給与増加割合から継続雇用者の給与増加割合に変更すると共に、上乗せ措置(従前の+5%部分)の見直しを行い、最大税額控除額を給与等支給額増加の30%へと拡充した上で、令和6年3月31日まで1年延長される。
大企業の研究開発税制等の不適用措置の強化 収益が拡大しているにもかかわらず、賃上げ等に消極的な企業に対して、特定税額控除(研究開発税制・地域未来投資促進税制・DX税制等)不適用規定を強化する。
交際費課税の特例措置の延長 地方活性化の中心的役割を担う中小企業の経済活動を支援する観点などから、次の交際費課税の特例措置が2年延長される。
① 交際費(飲食費や贈答品の費用等)を年800万円までは全額損金算入できる特例措置(中小企業のみ)
② 接待飲食費の50%を損金算入できる特例措置(中小企業、資本金の額等が100億円以下の大企業)
【適用時期】令和4年4月1日以後開始する事業年度から適用
少額な資産(足場・ドローン)のレンタル節税規制 少額な資産(建設用足場・ドローン・LED照明など)の購入を利用した過度な節税に対処するため、少額減価償却資産(30万基準および10万基準)・一括償却資産の各制度について、対象となる資産から「主要な事業以外への貸付けの用に供したもの」が除かれる
【適用時期】令和4年4月1日以後 ※個人事業者も同様
法人税の租税特別措置の延長・廃止 内容が見直された上で、
・3年延長(5G投資促進税制)
・2年延長(オープンイノベーション税制・地方拠点強化税制・大法人の欠損金の繰戻し還付制度の不適用等)
・廃止(平成21・22年に先行取得した土地等の課税の特例)
源泉税 完全子法人株式等配当の源泉徴収の不適用 「完全子法人株式等」と「一部の関連法人株式等」に係る配当等については、所得税を課さず、源泉徴収を行わないこととされる。
【適用時期】令和5年10月1日以後に支払を受けるべき配当等
事業税 外形標準課税の所得割の税率の見直し 外形標準課税の適用対象法人(資本金1億円超)の法人事業税・所得割について、年800万円以下の所得に係る税率が廃止され、標準税率が1.0%に一本化される。
【適用時期】令和4年4月1日以後に開始する事業年度から
納税環境整備 上場株式等の配当所得等の課税方式の一体化 現行制度では、上場株式等の配当所得・譲渡所得について所得税と個人住民税で「異なる課税方式」が選択可能だが、個人住民税の課税方式を所得税と一致させる。
【適用時期】令和6年度分以後の個人住民税(※経過措置が講じられる予定)
消費税のインボイス制度の登録手続の緩和 インボイス制度への円滑な移行のため、免税事業者が「適格請求書発行事業者」に適切なタイミングで登録できるよう、令和5年10月1日から令和11年9月30日の属する課税期間(導入開始から6年間)においても、課税期間の途中からの登録が可能となる。
電子取引のデータ保存の経過措置 電子取引の取引情報に係るデータ保存への円滑な移行のため、2年間の経過措置が整備される。
【適用時期】令和4年1月1日以後に行う電子取引の取引情報
帳簿不提出や悪質な納税者への対応 悪質な納税者(記帳義務の不履行や税務調査時の簿外経費の主張等)に対する対応策として、不利益措置(帳簿不提出等に対する加算税の加重措置・存在が不明な簿外経費の損金不算入措置)を行う。
税理士制度の見直し コロナ後の新しい社会を見据え、(1)税理士の業務環境や納税環境の電子化といった、税理士を取り巻く状況の変化に的確に対応するとともに、(2)多様な人材の確保や、(3)国民・納税者の税理士に対する信頼と納税者の利便の向上を図る観点から、税理士制度が見直される。

 

令和5年度税制改正以降に先送りされた主な検討事項

項目 概要
相続税・贈与税のあり方(資産移転時期の選択に中立的な税制の構築)
(大綱P11)
「今後、諸外国の制度も参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化防止等の観点も踏まえながら、資産移転時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。」
金融所得課税のあり方
(大綱P9,10)
高所得者層において、所得に占める金融所得等の割合が高いことにより、所得税負担率が低下する状況がみられるため、これを是正し、税負担の公平性を確保する観点から、金融所得に対する課税のあり方について検討する必要がある。その際、一般投資家が投資しやすい環境を損なわないように十分に配慮しつつ、諸外国の制度や市場への影響も踏まえ、総合的な検討を行う。」
金融所得課税一体化(デリバティブ取引)
(大綱P96)
デリバティブ取引に係る金融所得課税の更なる一体化については、金融所得課税のあり方を総合的に検討していく中で、意図的な租税回避行為を防止するための方策等に関するこれまでの検討の成果を踏まえ、早期に検討する。」
完全子法人株式等配当の源泉徴収不適用の税収への影響と対応
(大綱P8)
「完全子法人株式等及び関連法人株式等の配当に係る源泉徴収の見直しにより、令和5年度の税収が減少すると見込まれること等を踏まえ、その影響を緩和するための必要な対応等について、令和5年度税制改正において検討する。」
未来への投資等に向けた経済界への期待
(大綱P4)
「来年以降、経済界の取組状況等も見極めつつ、積極的に未来への投資に取り組む企業に対しては真に有効な支援を行うとともに、十分な投資余力があるにもかかわらず活用されていない場合に、企業の行動変容を促すためにどのような対応を講ずるべきかといった視点からも、幅広く検討を行う。」

 

資産税関係の今後について

今年の税制改正の目玉と予想されていた、相続税・贈与税の一体課税については,冒頭の「令和4年度税制改正の基本的考え方」以外の場所では一切登場しませんでした。しかし、税制改正大綱の中で唯一触れられている内容や、最近の政府税制調査会・自民党の総合政策集等の内容から、相続税・贈与税の一体課税に向けた改正が行われることは時間の問題であると思います。具体的にどのような改正が行われるかは分かりませんが、例えば、暦年課税制度の廃止(相続時精算課税制度への一本化)や生前贈与加算年数の拡大などは可能性として十分あり得るかと思います。
特に、今回の税制改正が小粒なものばかりだったので、令和5年税制改正では大幅な増税があり得ます。大幅な増税改正が行われる前に、事業承継対策や相続税対策の早期の検討が望まれます。