個人間の土地の貸借

 

個人間の土地の貸借について、とりわけよくある親子間での土地の貸借を例に相続税・贈与税の取扱いについて確認します。

 

使用貸借の定義

土地の貸借には地代を払って貸し借りを行う賃貸借の他に、無償で貸し借りを行う使用貸借というものがあります。使用貸借は耳馴染みがあまりない用語のため、まずは使用貸借の定義を確認します。

民法上の使用貸借の定義は下記のとおりです。

(使用貸借)民法593条

使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。

次に、相続税における使用貸借を確認します。

使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて(一部抜粋)

1 …使用貸借とは、民法(明治29年法律第89号)第593条に規定する契約をいう。したがって、例えば、土地の借受者と所有者との間に当該借受けに係る土地の公租公課に相当する金額以下の金額の授受があるにすぎないものはこれに該当し、当該土地の借受けについて地代の授受がないものであっても権利金その他地代に代わるべき経済的利益の授受のあるものはこれに該当しない。

上記の通り、民法593条および相続税の個別通達「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」によると、地代が無償の場合か固定資産税相当額以下の場合に使用貸借となることが分かります。ということは、逆に固定資産税相当額以上を支払う場合には賃貸借となることが分かります。(実務上は、賃貸借と認められるためには固定資産税相当額ではなく、保守的に固定資産税相当額の2倍~3倍以上を支払うことが多いです。)

 

賃貸借と使用貸借

個人間の土地の貸借において、賃貸借と使用貸借では課税関係が異なります。そこで、よくある具体的な例として、親が所有する土地(相続税評価額1億円、借地権割合40%)を子が借りて家を建てた場合、下記の賃貸借と使用貸借の2パターンで子にはどのような課税がなされ、相続時の土地の評価はどのようになるかを考えてみます。

  1. 賃貸借
    子が通常の地代として年間360万円の賃料を親に支払い、権利金(借地権)の授受をしていない場合
  2. 使用貸借
    子が無償で貸借し、権利金(借地権)の授受をしていない場合

結論、1.の場合には子に借地権の贈与があったものとみなして4,000万円(1億円×借地権割合40%)に対して贈与税が課せられます。親の相続発生時の土地の評価は貸宅地となり、借地権を除く6,000万円の評価を基礎に計算します。
2.の場合には子に借地権の贈与は生じません。親の相続発生時の土地の評価は自用地となり、借地権を含む1億円の評価を基礎に計算します。ただし、子は土地を無償で使用するため毎年の地代相当額に対して贈与税が課せられる可能性があります。この点、毎年の地代相当額が少額である場合又は課税上弊害がないと認められる場合には課税されません。

2.の結論の後段にある毎年の地代相当額に対する贈与税の可能性については玉虫色の結論ではありますが、毎年の地代相当額少額である場合課税上弊害がないと認められる場合の定義については明確な定めがなく、主観的かつ個別具体的に判断する必要があるため、一概に判断基準を示すことがとても難しい領域になります。
それを踏まえた個人的な見解では、使用貸借の場合でも通常の必要費を負担する義務があるため(民法595条)、少なくとも土地の固定資産税相当額分が年間110万を超えるような場合には贈与税が課税される可能性が高いと判断します。ただし、例えば土地の上に居住用家屋がある等の事情により、地代相当額を生活費の援助と捉えた場合、毎年の土地の無償使用は贈与税のテーブルに乗らずに課税されないと考えることもできます。

親子などの特殊な関係がある相互間での無償使用については、下記の基本通達が参照されます。

相続税法基本通達9-10 無利息の金銭貸与等

夫と妻、親と子、祖父母と孫等特殊の関係がある者相互間で、無利子の金銭の貸与等があった場合には、それが事実上贈与であるのにかかわらず貸与の形式をとったものであるかどうかについて念査を要するのであるが、これらの特殊関係のある者間において、無償又は無利子で土地、家屋、金銭等の貸与があった場合には、法第9条に規定する利益を受けた場合に該当するものとして取り扱うものとする。ただし、その利益を受ける金額が少額である場合又は課税上弊害がないと認められる場合には、強いてこの取扱いをしなくても妨げないものとする。