非上場株式譲渡の課税関係

 

M&Aや事業承継の場面においては、非上場株式譲渡に関する課税関係の知識が必須となります。非上場株式譲渡の課税関係に関するよくある質問論点について、確認していきます。

 

課税関係の基本

個人または法人が非上場株式を譲渡したときの課税関係は下記のとおりです。
・個人が非上場株式を譲渡した場合、他の所得と合算せず、譲渡益に対して20.315%(所得税15.315%・住民税5%)の税率により課税される。
・法人が非上場株式を譲渡した場合、譲渡損益は他の所得(本業から生じる所得など)と合算され、法人税等が課税される。
・譲渡ではなく贈与の場合、取得者に贈与税(最高55%)が課税される。

 

非上場株式の時価

非上場株式の時価の算定方法は、相続税・所得税・法人税の各通達に定められていますが、どの通達を適用するかは売手と買手の立場によって異なります。(下表参照)

売手→買手 売手時価 買手時価 同族株主の判定
個人→個人 相続税法上の時価
(評基通178以下)
譲受人取引後の議決権の数
個人→法人 所得税法
(所基通59-6)
法人税法
(法基通9-1-14)
売手:譲渡人取引直前の議決権の数

買手:譲受人取引後の議決権の数

法人→個人 法人税法
(法基通9-1-14)
所得税法
(所基通59-6)
譲受人取引後の議決権の数
法人→法人 法人税法上の時価
(法基通9-1-14)
譲受人取引後の議決権の数

各税法の時価の具体的な算定方法については各通達に委ねますが、相続税法上の時価は、同族株主等が取得する場合は原則的評価・それ以外は配当還元方式になり、所得税および法人税法上の時価は、一定の条件のもと相続税法上の時価に準じて算定できるようになっています。「準じて」算定なので、土地や上場株式は時価評価する、純資産価額方式における法人税相当額は控除しない、中心的な同族株主の場合は小会社評価など細かい点で相続税法上の時価と異なる算定となる点に留意が必要です。

 

どのような場面で問題となりうるか

課税関係で問題となりうるケースを考えてみます。
税法上明記されてはいませんが、純粋な第三者間取引においては、必ずしも税務上の時価を当てはめる必要はないと解されています(所得税基本通達逐条解説、法人税基本通達逐条解説)。純粋な第三者間における取引金額は、種々の経済性を考慮して合理的に決定された金額と想定されることが理由になります。実際のM&Aでは、税務上の時価を算定して売買するよりも、買手と売手のパワーバランスや対象会社の将来性を加味して株価が算定され、取引が実行されます。
従って、課税関係で問題となりうるケースは、同族関係者間の取引のように純粋な第三者間ではない取引で発生すると考えられます。特に、買手と売手で考慮すべき時価の金額が異なる場合には次のような課税リスクを考慮して取引金額を決定することが重要です。
なお、高額譲渡の場合には課税リスクが低いと考えられるため、低額譲渡のケースのみ記載します。

・個人→個人の低額譲渡:著しく低い価額の場合、時価との差額について買手に贈与税リスク。なお、著しく低い価額については時価の80%程度である見解を残している実務家や書籍が散見される。
・個人→法人の低額譲渡:50%未満の低額譲渡の場合、売手は時価譲渡したものとして譲渡益計算(同族法人への譲渡は50%以上でも時価課税リスクあり)、時価との差額について買手は受贈益リスク・買手の同族株主に贈与税リスク
・法人→個人の低額譲渡:売手は時価譲渡したものとして譲渡益計算、時価との差額について売手は寄付金課税リスク・買手は一時所得or給与課税リスク。
・法人→法人の低額譲渡:売手は時価譲渡したものとして譲渡益計算、時価との差額について売手は寄付金課税リスク・買手は受贈益リスク・買手の同族株主に贈与税リスク。
なお、法人→個人および法人→法人における低額譲渡については、法人税基本通達2-3-7の10%基準を準用して、時価の90%までであれば低額譲渡と認定されない見解を残している実務家や書籍が散見されます(あくまで許容範囲の考え方です)。

実際に数字を設定すると考えうる課税リスクは下表のとおりです。
取得価額:1,000、実際取引金額:2,000、適正時価:5,000

売手→買手 売手時価 買手時価
個人→個人 譲渡所得税
(2,000-1,000)×20.315%
【適正時価:相続税法】
贈与税
(5,000-2,000)×贈与税率
【適正時価:相続税法】
個人→法人 譲渡所得税
(5,000-1,000)×20.315%
【適正時価:所得税法】
法人税
(5,000-2,000)×法人税率
+他の株主に贈与税
【適正時価:法人税法】
法人→個人 法人税
(5,000-1,000)×法人税率
寄付金課税
(5,000-2,000)
【適正時価:法人税法】
所得税(一時所得or給与所得)
(5,000-2,000)×所得税率
【適正時価:所得税法】
法人→法人 法人税
(5,000-1,000)×法人税率
寄付金課税
(5,000-2,000
【適正時価:法人税法】
法人税
(5,000-2,000)×法人税率
+他の株主に贈与税

【適正時価:法人税法】

高額譲渡・低額譲渡により誰が得をしたか、さらに法人が得をした場合には法人株主の贈与税まで考えることで課税リスクを洗い出すことができます。最も注意すべきケースは個人→法人の低額譲渡であり、実際に得た譲渡対価を超えた時価で譲渡所得税が課税される点に留意が必要です。また、個人→個人の50%未満の低額譲渡において、買手は売手の取得時期及び取得費を引継ぐ点、譲渡損が生じる場合、売手の譲渡所得の計算上生じた損失はなかったものとみなす点にも留意が必要です。

 

その他の論点

非上場株式譲渡に至る経緯は千差万別であり、どのような場面で・誰に対して・何をしている会社を・どのような手段で譲渡するかにより、上記の課税関係の基本にプラスして数多くの論点があります。個人的に重要だと思うものをいくつか記載します。

(個人・法人)株式の発行法人へ譲渡する場合、売却価額のうち発行会社の資本金等の額に対応する部分を超えた金額は「みなし配当」として課税されます。
ただし、個人が相続した株式を相続開始後3年10か月以内に発行法人へ譲渡した場合には、「みなし配当」課税なし。
また、法人の「みなし配当」には受取配当等の益金不算入の適用がある。

(個人)次の①・②いずれかの会社のように、土地や借地権の保有割合が70%以上である会社の株式については、土地そのものの譲渡と同一視し、短期所有の不動産等の譲渡による所得とみなして39.63%(所得税30.63%,住民税9%)の税率により課税されます(措法32②)。
①時価総資産のうちに短期所有土地等(注)の時価の合計額の占める割合が70%以上である法人の株式の譲渡
②時価総資産のうちに所有土地等の時価の合計額の占める割合70%以上である法人の株式について、その株式の取得後短期間(注)のうちに行われる譲渡
(注)土地等又は株式の所有期間がその年1月1日において5年以下のもの

(個人)取得費が不明な場合や、取得費が譲渡収入金額の5%を下回る場合に、取得費を収入金額の5%とすることができます(措通37の10-13)。

(個人)相続により取得した株式を相続開始後3年10か月以内に譲渡する場合に、相続税の一部を取得費に加算することができます(措法39)。