役員借入金の解消方法

 

創業期の資金繰り問題や経理体制の不備等から生じた同族会社の役員借入金を巡り、税務上の様々な問題に直面することがあります。ある意味、負の遺産ともいえる役員借入金の解消方法について考えていきます。

 

役員借入金の問題①~金融機関編~

役員借入金に関する問題は様々な場面で生じます。例えば、融資の場面において、同族会社の役員借入金は、返済されないオーナーからの出資と見做され、役員借入金≒資本金と見做すことがあります。この事自体は、会社からするとポジティブなことですが、留意すべき点として、役員借入金の返済を定期的に行っていたり、会社が創業期を過ぎているにもかかわらず役員借入金がどんどんと増えていく場合、金融機関の担当者によっては、役員借入金≒資本金ではなく、通常の負債と評価される可能性があります。
また、役員借入金が多額にあることで融資を受ける際に経営者保証が外しにくくなることがあります。これは、「経営者保証に関するガイドライン」の中で、「資産の所有やお金のやりとりに関して、法人と経営者が明確に区分・分離されている」ことが要件に含まれており、役員借入金の存在により、法人資産と個人資産が区分されていないと捉えられる可能性があるということが原因です。

 

役員借入金の問題②~資金繰り節税編~

役員報酬を支払い続けながら役員借入金を発生させることは資金繰りの観点から望ましくないと言えます。
例えば、役員報酬を100計上し、社会保険15(会社負担15)、源泉税10を控除後に手取りで役員に75支払い、その後資金繰りの観点から役員借入を50したとします。役員報酬の支払いにより、法人税は(役員報酬100+社会保険会社負担15)×30%=34.5の節税ができますが、社会保険と所得税で(社会保険30+源泉税10)=40の支払が生じています。会社とオーナーを一体として考えたとき、手残りは▲40(オーナー25(=手取り75-貸付50)、会社▲65(=社会保険▲30+源泉税▲10+給料支払▲75+役員借入50))となります。これであれば、役員報酬も役員借入もせずに法人税を支払い、手残り▲34.5(上記法人税の節税額)とした方が資金繰りは良くなります。極端な例ですが、役員借入は役員報酬の税引き後の手取りからの借り入れとなるため、資金繰りの観点から考えると役員報酬を低く設定して、役員借入金が生じないようにすることが重要です。言い換えると、適切な役員報酬の設定が重要な点と言えます。(さらに言うと、繰越欠損金が発生している会社においては、節税効果は見込めないため、役員報酬支給後に役員借入金を行うことはなおさら望ましくないと言えます。)

 

役員借入金の問題③~相続税編~

役員借入金は、オーナーにとっての貸付金となるため、オーナーの相続発生時に相続財産となり、相続税の支払が生じます。特に回収が困難な貸付金(役員借入金)の場合、貸付金(役員借入金)を相続したオーナーの相続人は、手出しで相続税の支払いをしなければならない状況に陥ることがあります。
相続税の計算において、貸付金(役員借入金)は原則額面額で評価することになりますが、貸付金(役員借入金)ではなく、出資金(会社にとっての資本金)であれば、株価評価によっては額面額よりも低い評価となるケースもあります。この点からも、役員借入金を放置しておくことの問題点が伺えます。

 

役員借入金の解消方法

役員借入金に関する問題が生じる前に手を打つことが最善ではありますが、既に発生している場合にどのように解消すべきでしょうか。
例えば下記のような方法が考えられます。

  1. 役員報酬の減額
    役員報酬を減額し、役員借入金の返済を進めます。例えば、今まで100万/月を支払っていた役員報酬を50万/月に減額して、役員借入金を50万/月のペースで返済していくという方法です。これは、最もオーソドックスなケースと考えられますが、役員借入金の金額によっては長い歳月を必要とします。
  2. 債権放棄
    繰越欠損金があり、短期的に解消したい場合にはオーナーの債権放棄を検討します。債権放棄した場合、会社にとっては債務免除になりますので、債務免除益が生じます。繰越欠損金がない場合には所得の発生⇒法人税の支払となりますので留意が必要です。また、債務免除益による株価上昇や株主が複数いる場合のみなし贈与にも留意する必要があります。なお、債権放棄の際には債権放棄通知書に確定日付を残すべきと考えます。
  3. DES
    繰越欠損金があり、短期的に解消したい場合にはDESも検討対象となります。DESは、役員借入金を資本金に置き換える(オーナー側は貸付金を株式に置き換える)方法です。オーナー側は貸付金の代わりとして株式を所有することができ、その後の株価対策によっては相続税対策を行うことも可能です。ただし、相続発生が近い場合の留意点や債務免除益が生じる点、貸付金の評価、均等割の増加など税務上の留意点が多くあり、慎重な検討が必要です。
  4. 貸付金の生前贈与
    オーナーの相続発生時に貸付金(役員借入金)がある場合、貸付金(役員借入金)は原則額面額で評価することになります。役員借入金の根本的な解消にはなりませんが、オーナーの貸付金(役員借入金)を生前に贈与していくことは相続税対策として有効に機能することがあります。ただし、贈与税の観点から役員借入金の金額によっては長い歳月を必要とします。

この他にもDESを派生させた疑似DESや代物弁済、第二会社方式などの方法がありますが、これらは私自身も経験がないことや上述した方法に比して優先順位が低いと考えられるため、省略します。

 

最後に

同族会社において、役員借入金と同じように役員貸付金が問題となるケースも多々あります。役員借入金と逆の考え方で解消方法を見出すことができますが、役員借入金・役員貸付金ともに、発生させないための事前準備が最も重要です。そのためには、資金繰り管理や適切な役員報酬の設定等、先を見据えた経営管理が必要になります。