各税法の税務上の時価

 

税務上の時価は、使用する場面や準拠する税法によって金額が異なることがあります。そこで、主要な税法での原則的な取り扱いを確認したいと思います。

 

相続税・贈与税

相続税法22条 一部抜粋

…相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により…

財産評価基本通達1(2) 一部抜粋

財産の価額は時価によるものとし、時価とは、課税時期(相続、遺贈若しくは贈与により財産を取得した日…)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。

相続税法22条において財産の価額は時価によることを定義しており、基本通達において時価は通達の定めによって評価する旨記載されています。これは、例えば実際に売買していない土地の取引価額(客観的交換価値)を算定することは困難なので、評価通達に定められた方法で算定してもOKということですが、評価通達に則って算定すると、課税の公平性や簡便性・安全性等が加味された結果、実勢価格(客観的交換価値)以下の水準となることがほとんどです。例えば、土地を財産評価基本通達に従って評価すると、実勢価格(客観的交換価値)の概ね70%~80%程度の金額となります。
ただし、あくまでも原則は客観的交換価値ですので、財産評価基本通達による評価額が公平性を著しく害する場合には、原則に立ち返って時価評価することになります。これは、財産評価基本通達6において「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と記載していることからも明らかです。
なお、財産評価基本通達による評価が認められない具体的な取引として、負担付贈与や時価に比べて著しく低い価額による譲渡が挙げられます。

また、財産評価基本通達による評価方法は、相続税・贈与税の計算においては認められていますが、所得税・法人税おいては認められているものではありません。(非上場株式の評価においては、財産評価基本通達に定める評価方法を一部変更して計算する)

 

法人税

法人税法22条の2④ 一部抜粋

…益金の額に算入する金額は、…、その販売若しくは譲渡をした資産の引渡しの時における価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額とする。

法人税法基本通達2-1-1の10 一部抜粋

その販売若しくは譲渡をした資産の引渡しの時における価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額…とは、原則として資産の販売等につき第三者間で取引されたとした場合に通常付される価額をいう。

法人税法22条② 一部抜粋

…益金の額に算入すべき金額は、…、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。

法人税法22条④ 一部抜粋

収益の額…は、…、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。

法人税・所得税においては、相続税における財産評価基本通達のように評価方法を認める法令・通達がないため、解釈の仕方が少し難しく感じます。
益金に計上する金額という視点から時価を捉えると、22条の2④において譲渡資産の価額又は役務提供の通常対価相当額である旨定義され、基本通達2-1-1の10により第三者間で取引されたとした場合の価額と説明がされています。また、22条②において無償取引も益金が生じるとしています。
さらに、22条④から企業会計の処理を前提としていることが分かります。

 

所得税

所得税法36条① 一部抜粋

その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額…は、…、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)…とする。

所得税法36条② 一部抜粋

金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする。

所得税の解釈が個人的には最も難しく感じますが、これも収入金額という視点から時価を捉えると、所得税法上の収入金額の概念は、外部からの経済的価値の流入と解され、原則として取引当事者間で定めた対価の額で課税することになります。(法人への1/2未満の低額譲渡等の例外あり)

 

著しく低い価額

少し話が戻りますが、財産評価基本通達による評価が認められない具体的な取引として、時価に比べて著しく低い価額による譲渡があります。著しく低い価額で財産を譲渡した場合に、財産の時価と譲渡対価の差額に対して贈与税が課され、当該財産が土地・建物等である場合、財産評価基本通達による評価額ではなく、通常の取引価額で評価しなければならないというものです。(負担付贈与通達1)
ここで、相続税法においては、所得税法(所得税法59条、所得税法施工令169条)のように著しく低い価額の明文規定がないため社会通念に従って個別に判断することになりますが、過去の裁判例の内容から80%程度であれば著しく低い価額に該当しないという見解を残している税理士や書籍が散見されます。土地の相続税評価が公示価格の約80%であることからも、個人的には時価の80%程度であれば著しく低い価額とは言い切れないのではないかと考えます。(あくまでも目安です。)いずれにせよ、土地・建物等を相続税評価により売買する場合には慎重な検討が必要になります。