成年後見制度

 

令和4年度税制改正において、税理士法人の業務範囲に成年後見業務が追加されました。
成年後見制度の主戦場は弁護士や司法書士ですが、資産税を取り扱う税理士においても切っても切れない関係にある制度と言えます。

 

成年後見制度の概要

成年後見制度は、本人の判断能力が不十分な場合(認知症、知的障害等)に、本人の利益を保護することを目的として、財産管理・身上保護を支援する制度です。具体的には、本人に代わって不動産の管理や預貯金の管理、医療費の支払、介護サービスの契約などを行います。食事の世話や実際の介護などは、一般に成年後見人等の職務ではありません。

成年後見制度は、認知症等になる前に後見人をたてる任意後見制度と、認知症等の発症後に後見人を立てる法定後見制度の2つに分けられます。

 

任意後見制度の活用

誤解を恐れずに言うと、成年後見制度を利用することが見込まれる場合、認知症等になる前に将来の後見人と任意後見契約を締結する任意後見制度を活用する事が望まれます。理由は、法定後見制度は本人の意思が反映されないからです。
法定後見制度の場合、後見人は家庭裁判所により選任されるため、親族が選ばれるとは限りません。例えば、一部の親族が反対している場合や、関係が疎遠な場合、高額な財産を所有している場合、居住場所があまりにも遠い場合等の理由により、見ず知らずの第三者が後見人に選任される可能性があります。
一方、任意後見制度の場合には、認知症等になる前に信頼できる後見人(親族)を自ら選任することで、信頼できる後見人(親族)を通して本人の意思を反映することが出来ます。
さらに、任意後見契約の内容を、将来認知症になった場合に後見を開始するものとし、別途見守り契約(月一で安否訪問をしてもらう)や財産管理契約(金銭管理や福祉サービス契約の代行をしてもらう)を締結することで、認知症になる前に任意後見契約の後見人が信頼に足るかを見極めることもできます。(信頼できなければ任意後見契約を解消できる)

 

成年後見制度と遺言・遺産分割協議

税理士の場合、遺言や遺産分割協議周りの話に付随して成年後見制度の話が出てくることがあります。よくある質問としては、成年被後見人になっても遺言書の作成は可能か?ということですが、成年被後見人であっても、法律上、判断能力が回復していて、医師2人以上の立会があれば遺言書の作成が可能です。ただし、遺言に立ち会った医師による「遺言者が遺言をする時において精神上の被害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨」の記載および署名押印が必要となるため、実際のところ遺言を作成することは極めて厳しくなります。

また、遺産分割協議や不動産処分のような単発的な出来事に成年後見制度を利用した後、成年後見制度の利用を終了させることはできるか?という質問もあります。原則、成年後見制度のお世話になると認知症等が治癒して正常な判断能力を回復するか、亡くなるまで成年後見制度は継続します。「成年後見人等の報酬額のめやす(大阪家庭裁判所)」によると、成年後見人への報酬は月額2万円を基本として財産額に比例して月額3~6万、さらに特別な動きがあった場合に報酬が付加されます。成年後見制度が継続することにより、成年後見人へ毎月報酬が発生し続けることを認識する必要があります。

その他、認知症になるとできなくなることとして、主に銀行口座からの入出金、不動産や金融商品の処分、医者や介護施設選びが挙げられます。認知症になる前にやっておくこととしては、遺言書を作成しておくこと、入居施設の要望をまとめておくこと、信頼できる専門家を探しておくことなどが挙げられます。

 

家族信託と成年後見制度

家族信託は、相続対策における被相続人の認知症対策として活用が期待されています。
認知症対策という点では任意後見制度と似たような仕組みですが、任意後見制度の場合は信頼のできる後見人の他に、裁判所が選任する任意後見監督人が選任されるためある意味裁判所の管理下に置かれる一方で、家族信託では第三者が入らず親族内で完結させることが出来ます。
また、成年後見制度では、被後見人の財産を保護することが重視されるため、投資不動産の買い替えなどリスクの生じる取引などは基本的にできませんが、家族信託は、財産の所有者が受託者に財産管理を任せることで、必要に応じて資産の運用や処分ができます。

家族信託と後見制度の主な違いは下記の通りです。

利用目的 対象財産 選任方法 財産管理の権限
後見制度 被後見人の財産管理と身上保護 法定:財産全て
任意:契約で定める
法定:家庭裁判所が選任
任意:契約で定める、後見監督人は家庭裁判所が選任
法定:代理権と取消権
任意:契約で定める
家族信託 委託者の財産管理と財産承継 信託契約で定める 信託契約で定める 信託契約で定める

家族信託には身上保護が含まれていないため、大きな財産については家族信託で運用し、その他を任意後見で管理する等の併用も必要に応じて検討すべきです。

 

最後に

成年後見制度を利用する場合、一般的には任意後見制度を活用すべきと冒頭で述べましたが、実際のところ法定後見制度を活用すべきか、任意後見制度を活用すべきか、はたまた家族信託を活用すべきかはケースバイケースです。
例えば、法定後見制度で家族が後見人となることができて後見監督人もつかなければコストは一番かかりません。一方で、信頼できる家族を確実に後見人とすることを重視するのであれば任意後見制度を活用すべきです。任意後見制度を活用して半永久的に後見監督人へ報酬を支払うことが気になる場合や、財産が多額にあり積極的な相続対策をしたいのであれば家族信託を活用した方が良いかもしれません。いずれにせよ、認知症等になり判断能力が無くなってからできることは限られるため、早期に専門家と検討することが望まれます。

なお、成年後見制度の利用を促進すべく、第二期成年後見制度利用促進基本計画(厚生労働省HP)において成年後見制度の見直し(後見人制度を終身ではなく有期とする等)が検討されています。