生前贈与を活用した相続税対策

 

生前贈与を活用した相続税対策についてまとめました。

 

贈与の基礎

贈与の定義は、民法第549条に以下のように記載があります。

民法 第549条

当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。

ここで重要な点は、贈与者と受贈者のどちらか一方が欠けてしまうと贈与は成立しないということと、意思表示(合意)があれば贈与が成立するということです。
それ故、生前贈与をした場合に贈与の事実の有無が度々問題となるため、どのように贈与すれば後々問題とならないのかをよく聞かれますが、一般的には下記のような点に注意すべきです。

①贈与内容を実行する
②管理処分権を移す
③贈与契約書を作成する
④贈与税の申告納付をする

個人的に重要だと思う順番で記載しましたが、特に重要なのは①および②だと思います。つまり、形式的に贈与をするのではなく、実態のある贈与をするということです。現金の贈与をするのであれば受贈者の口座に実際に送金をして受贈者が自由に現金を使えるようにすること、不動産の贈与をするのであれば所有権移転登記を行い受贈者が不動産にかかるコストを負担し収益を享受することです。

 

贈与税と相続税の関係

贈与税は相続税の補完税としての役割を有すると言われており、資産の承継を生前にする場合は贈与税が課され、相続発生に伴いする場合は相続税が課せられます。贈与税法という法律が存在せず、贈与税の計算方法が相続税法の中で規定されていることからも贈与税と相続税が密接に関係していることが分かります。
一方で、贈与と相続は下記の点で決定的な違いがあります。

承継時期 承継者 課税価格 回数
贈与 選択可 選択可 贈与時の価格 何回でも
相続 選択不可 選択不可(遺言により可) 相続時の価格 一回

承継時期・承継者・承継金額・承継回数をコントロールできる生前贈与を活用し、相続税対策をすることが重要になります。

 

生前贈与を活用した相続税対策

相続税対策として活用される生前贈与の方法は数多くありますが、例えば以下のような方法が挙げられます。

①相続税の限界税率と贈与税の実効税率に着目した暦年贈与
②相続時精算課税制度の活用
③扶養義務者からの生活費、教育費の贈与
④贈与税の配偶者控除
⑤住宅取得資金贈与に係る非課税措置
⑥教育資金一括贈与に係る非課税措置
⑦結婚・子育て資金一括贈与に係る非課税措置
⑧非上場株式対策(株価引き下げ、事業承継税制の活用、組織再編など)

それぞれの説明は長くなるので別の機会に回し、今回はその効果の割にはあまり注目されない③扶養義務者からの生活費、教育費の贈与について取り上げたいと思います。

 

扶養義務者間の生活費、教育費の贈与

年間合計で110万円を超える贈与を受けた場合に贈与税が課されることはよく知られていますが、相続税法第21条の3には以下のような記載があります。

相続税法 第21条の3 贈与税の非課税財産 一部抜粋

次に掲げる財産の価額は、贈与税の課税価格に算入しない

一 (省略)
二 扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの

上記に該当する場合、年間合計110万円や非課税措置(上記④配偶者控除、⑤住宅取得資金贈与、⑥教育資金一括贈与、⑦結婚・子育て資金一括贈与)の非課税限度額のテーブルには乗らず、必要額の上限が定められないことになります。例えば、同じ年間500万円の贈与でも、単なる贈与であれば50万円程度の贈与税がかかる一方、海外留学に伴い親から生活費や教育費を必要な都度、必要な金額貰っている場合、贈与税がかからない事があり得るということです。
ここで重要な点は、扶養義務者の定義、生活費・教育費・通常必要と認められるものの範囲になります。下記にそれぞれの定義等を記載しますが、必要な金額を、必要な都度直接贈与することが重要で、例えば受贈者が贈与されたお金を貯金している場合や、教育費や生活費を一括送金した場合には贈与税課税の可能性があり得ます。

扶養義務者(父母や祖父母)から「生活費」又は「教育費」 の贈与を受けた場合の贈与税に関するQ&A 一部抜粋

「扶養義務者」とは、次の者をいいます。① 配偶者 ② 直系血族及び兄弟姉妹 ③ 家庭裁判所の審判を受けて扶養義務者となった三親等内の親族 ④ 三親等内の親族で生計を一にする者

「生活費」とは、その者の通常の日常生活を営むのに必要な費用(教育費 を除きます。)をいいます。また、治療費や養育費その他これらに準ずる もの(保険金又は損害賠償金により補てんされる部分の金額を除きます。) を含みます。

「教育費」とは、被扶養者(子や孫)の教育上通常必要と認められる学資、 教材費、文具費等をいい、義務教育費に限られません。

「通常必要と認められるもの」とは、贈与を受けた者(被扶養者)の需要と贈与をした者(扶養者)の資力その他一切の事情を勘案して社会通念上適当と認められる範囲の財産をいいます。

(民法第877条、相続税法基本通達1の2-1、21の3-3、21の3-4、21の3-5、21の3-6)

 

少し話がそれますが、所得税法上の扶養親族と民法上の扶養義務者は異なるため注意が必要です。私はこの勘違いで過去に大きなミスをしかけたことがあります。

(参考)タックスアンサー 所得税 No.1180 一部抜粋

扶養親族とは、その年の12月31日(納税者が年の中途で死亡し又は出国する場合は、その死亡又は出国の時)の現況で、次の四つの要件のすべてに当てはまる人です。
(1) 配偶者以外の親族(6親等内の血族及び3親等内の姻族をいいます。)又は都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること。
(2) 納税者と生計を一にしていること。
(3) 年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であること。(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
(4) 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと。

 

今後の見通し

相続税・贈与税は今後、大小あれど税制改正が入ることになります。

例えば、扶養義務者間の生活費、教育費の贈与については、日本公認会計士協会の「我が国の資産課税の在り方に関する論点整理」において、この制度による格差固定の可能性が指摘されていますし、自由民主党・公明党の「令和3年度税制改正大綱」や東京税理士会の「令和4年度税制及び税務行政の改正に関する意見書」において、相続税・贈与税の一体課税の検討が謳われています。

抜本的な改正がなされるか否かは分かりませんが、暦年贈与の基礎控除110万円の廃止や、相続開始前3年以内の贈与財産加算における期間延長、非課税措置の限度額の縮小など、増税に向かう改正はあり得ますので、これらの点からも、生前贈与を活用した相続税対策を早いうちから検討することが重要です。