団塊の世代全員が75 歳以上となる 2025 年を目前に控え、事業承継がいよいよ待ったなしの状況となる中、2022年3月に事業承継ガイドライン第3版が公表されました。2016年12月以来、約5年ぶりの改訂となります。
第2版との比較
2016年の前回改定版と横並びで見ると、目次を含め基本的な構成は変わらず、調査結果の更新や切り口の変えた新しい調査結果の掲載、具体的事例の増加などにより、P96→P139にページ数が増えています。
目次で追加された「第一章 事業承継の重要性 (5)企業の更なる成長・発展の機会としての事業承継」においては、
・経営者の交代があった中小企業において、交代のなかった中小企業よりも売上高や利益の成長率が高いことの報告
・事業承継時の年齢が若いほど成長率が高い傾向にあることの報告
が追記されており、
「第一章 事業承継の重要性 (6)地域や業種等によって異なる事業承継の取組の進捗」においては、
・事業承継の取組状況が地域や業種等によって大きく異なっている事の報告
が追記されています。具体的には、2021年の都道府県別の後継者不在率を見ると、最も水準が低い三重県と、最も水準が高い鳥取県との間で 39.1 ポイントもの差があります。また、2011年から2021年における後継者不在率の変化を業種別にみると、「運輸・通信」や「製造」などは比較的改善が進んでおり、水準も低い一方で、「建設」や「小売」などは比較的改善が進んでおらず、水準も依然として高い状況にあります。
その他、2016年の前回改定版から法改正が入った項目(例えば、所在不明株主の整理・遺言の活用・個人版事業承継税制など)については記載内容が変更されています。さらに、登録M&A支援機関に関する記載の追加や、社外への引継ぎ(M&A)の手法と留意点に関する記載の厚みが増すなど、この5年間で増加しているM&A関連の記載が比重を増しています。
その他のガイドライン
事業承継ガイドラインの中で、事業承継の各場面に応じたその他のガイドラインの紹介がなされています。それぞれまとめると、下表のとおりです。
ガイドライン名 | 策定日 | 概要 |
中小M&Aガイドライン | 2020年3月 | 後継者不在の中小企業(M&Aの譲渡側)等に向けた、M&Aを適切な形で進めるための手引き |
中小PMIガイドライン | 2022年3月 | M&Aの譲受側がM&A後に適切に経営統合を行うために必要な取組を整理したもの |
経営者保証に関するガイドライン | 承継:2019年12月
廃業:2022年3月 |
経営者保証の課題や弊害に対する解決策の方向性を取りまとめたもの |
中小企業の事業再生等に関するガイドライン | 2022年3月 | 中小企業の円滑な事業再生等を一層支援するため、関係者間の共通認識を醸成し、一体となって取組を進めるべく策定 |
(リンク先は、「中小企業庁ウェブサイト」および「全国銀行協会ウェブサイト」)
中小PMIガイドライン
事業承継ガイドライン第3版と時を同じくして中小企業庁から公表されたガイドラインが、中小PMIガイドラインになります。
『譲受側が、M&Aの目的を実現させ、その効果を最大化する上では、M&Aにおける最終契約の締結・決済はいわば「スタートライン」に過ぎず、その後の統合等に係る取組(PMI:POST MERGER INTEGRATION)こそが重要であるにもかかわらず、PMIの重要性についての理解すら中小企業には十分に浸透しておらず、PMIの取組を支援する支援機関も十分に存在していない状況』(「中小PMIガイドライン」引用)を踏まえ、M&Aの譲受側の取組を整理した初めてのガイドラインです。
財務DDや法務DDにおいては一定程度の調査が行われるものの、書面で情報を確認することがメインとなるため、得られる情報は限られます。このため、M&A後のPMIを通じた円滑な統合が重要となります。中小PMIガイドラインでは、具体的な場面における具体的な取組が記載されており、非常に有用なものだと感じました。
例えば、PMIの取組【基礎編】においては、経営統合・信頼関係構築・業務統合の各領域における具体的な取組が記載しています。(下図は、信頼関係構築における譲渡側従業員への対応に関する具体的な取組)
(出典元:中小企業庁「中小PMIガイドライン~中小M&Aを成功に導くために~」)
また、PMIの取組【発展編】においては、代表的なシナジー効果(下図)を示すと共に、取組事例や留意点などの記載があります。
(出典元:中小企業庁「中小PMIガイドライン~中小M&Aを成功に導くために~」)
M&Aの成約から成功に繋げるため、ガイドラインの理解が重要になります。