資産税と令和6年度税制改正

 

令和5年12月14日に与党から令和6年度税制改正大綱が公表され、令和6年2月2日に税制改正法律案が閣議決定・国会に提出されました。今後、3月末に税制改正法律案が成立・公布され、4月1日に法律が施行される予定です。

 

令和6年度税制改正大綱の主要項目(資産税)

税目 項目 概要
資産税 非上場株式に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例制度の延長 法人版事業承継税制の特例措置に係る特例承継計画の提出期限2年延長され、令和8年3月31日までとなる。
特例措置自体は、「令和9年12末までの適用期限については今後とも延長を行わない。」旨、改めて明記された。
個人の事業用資産に係る相続税・贈与税の納税猶予制度の延長 個人版事業承継税制に係る個人事業承継計画の提出期限2年延長され、令和8年3月31日までとなる。
住宅取得等資金の贈与の延長・見直し 下記を見直したうえで3年延長され、令和8年12月31日までとなる。
①省エネ・耐震性・バリアフリー住宅の要件について見直し。
②震災特例法における受贈者について見直し。
【適用時期】令和6年1月1日以後に贈与により取得する住宅取得等資金に係る贈与税について適用
住宅取得等資金の贈与における相続時精算課税制度の特例 住宅取得等資金の贈与において、贈与者が贈与の年の1月1日において60歳未満であっても相続時精算課税を選択することができる特例3年延長され、令和8年12月31日までとなる。

 

資産税と令和6年度税制改正

昨年の令和5年度税制改正では、贈与税と相続税の一体化に向けて相続時精算課税制度を使いやすくすることを意図した、相続時精算課税制度の改正という目玉の改正がありましたが、令和6年度税制改正では、資産税の大きな改正はなく、要件見直しを含めた既存税制の延長にとどまりました。
税制改正大綱の「令和6年度税制改正の基本的考え方」では、大きな時代の転換点において日本がデフレから脱却するためには物価上昇を上回る賃金の上昇を最優先とすべき、とした上で、人口減少や経済のグローバル化などの経済社会の構造変化を踏まえた税制の見直しを謳っています。令和6年度税制改正は、賃上げ促進税制の強化や所得税住民税の定額減税を始めとしたデフレ脱却への改正、子育て世帯に対する住宅関連税制の見直しによる子育て支援に関する政策税制、地域・中小企業の活性化、グローバル化を踏まえた見直しに主眼を置いた税制改正となりました。

 

マンションの相続税評価額の見直し

下記の通り、令和5年度税制改正大綱において改正を示唆していたマンションの相続税評価額については、令和6年度税制改正大綱を待たずに、令和5年10月6日に国税庁が公表した「居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)」により評価額の見直しがなされ、令和6年1月1日以後の相続、遺贈又は贈与税により取得した財産から適用されることになりました。マンション評価額の計算は、居住用の区分所有財産の評価に係る区分所有補正率の計算明細書(国税庁HP)を使用して行うことになります。

令和5年度大綱P21 一部抜粋

マンションについては、市場での売買価格と通達に基づく相続税評価額とが大きく乖離しているケースが見られる。
…このため、相続税におけるマンションの評価方法については、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する。

 

その他の令和6年度税制改正大綱の主要項目

税目 項目

所得税

 

 

 

 

 

 

 

 

所得税・個人住民税の定額減税(合計所得金額1,805万円以下が対象、令和6年分の所得税額:本人・同一生計配偶者・扶養親族1人×3万円の特別控除、住民税所得割額:本人・控除対象配偶者・扶養親族1人×1万円の特別控除)
子育て世帯等に対する住宅ローン控除の拡充(一定の住宅の借入限度額上乗せ措置)
子育て世帯等に対する住宅リフォーム税制の延長・拡充(子育て対応改修を新設)
ストックオプション税制の要件の緩和(保管委託要件緩和、一定の株式会社について上限権利行使価格3,600万円(設立5年未満2,400万円)へ引上げ、外部協力者への付与要件緩和、電磁的提出方法)
エンジェル税制の拡充(一定の新株予約権、金銭信託も対象)
収用交換等の場合の譲渡所得の5,000万円控除等の見直し
特定の居住用財産の買換え特例・交換特例の適用期限の延長
居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除の適用期限の延長
特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除の適用期限の延長

法人税

 

 

 

 

 

 

 

大企業向け・中小企業向け賃上げ促進税制の拡充及び延長(中堅企業向けの賃上げ促進税制が新設、中小企業の5年間の繰越控除制度の創設、税額控除率や条件変更等)令和6年4月1日から令和9年3月31日までに開始する事業年度に適用
外形標準課税の見直し(①減資への対応⇒資本金と資本剰余金10億円超で対象、②100%子法人等への対応⇒資本金と資本剰余金2億円超で対象)①令和7年4月1日以後開始する事業年度に適用②令和8年4月1日以後開始する事業年度に適用
企業交際費の損金不算入制度の見直し(1万/人以下へ拡充)
イノベーションボックス税制の創設(国内で自ら研究開発した特定特許権等の譲渡・貸付に係る所得のうち一定額を損金算入)
戦略分野国内生産促進税制の創設(産業競争力強化法の「事業適応計画」にしたがって導入された機械等の税額控除、電気自動車・半導体等を対象)
中小企業事業再編投資損失準備金の積立ての拡充・延長(積立率の上限拡大、据置期間の長期化)
倒産防止共済に係る措置の適用制限(解除から2年経過までは損金算入に制限)
国際最低課税(グローバルミニマム課税)の見直し(連結総収入金額7.5億ユーロ以上のグループが対象のグローバルミニマム課税について、所得合算ルールの見直し)

消費税

 

 

 

 

プラットフォーム課税の導入(国外事業者に変わり取引高50億円超のプラットフォーム運営事業者に納税義務が課せられる)令和7年4月1日以後適用
国外事業者に係る事業者免税点制度の特例の適用の見直し等(国外事業者の納税義務の免除、簡易課税の見直し)
免税事業者等からの仕入れに係る経過措置の見直し(年10億を超える部分の課税仕入れについては仕入税額控除経過措置の適用不可)
外国人旅行者向け免税制度の見直し(免税購入物品の国内横流し防止)
消費税等に係る帳簿の記載事項の見直し(自販機特例等は帳簿への住所記載不要、税抜経理を採用する簡易課税適用者の経理処理明確化)

納税環境整備

 

 

更生の請求に係る隠ぺい・仮装行為に対する重加算制度の整備
不正により国税を免れた会社役員の第二次納税義務の整備
税務代理権限証書等の様式の整備

検討事項

 

 

 

 

子育て世帯に対する生命保険料控除の拡充(23歳未満の扶養親族を有する場合の新生命保険料控除上限4万→6万、合計上限は変更なし)
扶養控除の縮小・ひとり親控除の拡充(児童手当の所得制限の撤廃とのバランス)
年金課税のあり方の総合的な検討
小規模企業等に係る税制のあり方の検討
物納許可限度額の計算方法の検討(上場株式等による物納要件の見直し)