融資における交渉

 

通常の会社運営時のみならず、M&A、事業承継、清算、相続など様々な場面で融資に関する知識は必須であり、同時に銀行員との交渉についても深く学ぶ必要があります。

銀行員と上手く交渉するためには、まず、銀行員が喜ぶこと、嫌がることを知るべきです。銀行員が嫌がることの大半は、事業者側が得をする場合が多いため、銀行員が嫌がることを積極的にすべきという話ではなく、あくまで銀行とは対立せずに良い付き合いをすべきであり、融資に関する知識を持って交渉するテーブルにつくことが重要です。
知識がないと、意図せずして銀行員が嫌がることをしてしまう場合もあります。当たり前のことですが、銀行員も自分たちが損をするから辞めてほしいと直接言うことは難しく、そのため、些細なことから関係性が崩れてしまわないように銀行員が喜ぶこと、嫌がることを理解することが重要です。

 

銀行員が喜ぶこと⇔嫌がること

会社が置かれている状況や、会社の成長ステージ、銀行との関係性、会社規模などによって一概には言えませんが、一般的に知られていることや私が実際に感じたことを挙げていきます。

① スケジュール通りの返済⇔繰り上げ返済
銀行は、融資で獲得する利益について返済期日を基に計算しています。債務者である会社において、支払利息を理由に返済期日を待たずに繰り上げ返済するということは、銀行が計算している利益を少なくするということであり、良好な関係性を築いている銀行に対して繰り上げ返済をすることは、ある種禁じ手に近い行為とも捉えられます。ただし、背に腹は代えられない状況や、今後取引を継続しない銀行に対して繰り上げ返済をする場面はあるかと思います。なお、個人の住宅ローンに関しては銀行との関係性を加味する必要は通常ありませんので、繰り上げ返済はよくある光景と言えます。

② 資金使途が明確⇔資金使途が不明確・資金使途違反
融資を受ける際には資金使途を明確にすべきです。運転資金として融資を受ける際にもできるだけ具体的に、例えば通常運転資金なのか、つなぎ資金なのか、納税資金なのか、賞与資金なのか、季節的資金なのか、減産資金なのか、余裕資金なのかを提示することが重要です。特に余裕資金の場合には、流動性を高めるために必要等、銀行側が納得のいく説明が求められます。
また、資金使途違反は契約違反であることを認識する必要があります。保証協会付き融資で資金使途違反をした場合、該当する銀行のみならず、他行からも融資を受けられなくなる可能性もあります。注意すべき点として、設備資金融資について融資実行前に自己資金で設備を購入する場合や、運転資金融資について必要資金が減少した場合にも、資金使途違反と捉えられる可能性があります。このような状況が想定される場合には、資金使途違反となることを防ぐため、銀行への事前相談をお勧めします。

③ 証書貸付⇔当座貸越
当座貸越契約は、最初に限度を設定したうえで、限度内であれば自由に融資を受けることができる融資(契約)です。当座貸越は、資金使途が不明確であり、契約自体は通常1-2年ですが返済期限が不明確です。上記①、②に記載した通り、銀行は資金使途が不明であることや返済期限が不明確なことを嫌いますので、当座貸越は銀行にとってリスクとも言えます。逆に、会社としては必要な時に必要な額だけスムーズに融資を受けることができますので、かなり使い勝手が良く、そのため当座貸越を設定すること自体が、ある意味銀行に認められたというステータスにも繋がります。BSに投資資産や貸付金などがあるうちは難しいかもしれませんが、純資産プラス、黒字、預金残高月商3か月程度の状況を目安に、メインバンクに当座貸越の打診をしてみる価値はあると思います。注意すべき点として、当座貸越はあくまで一時的な運転資金を目的とした融資であるため、当座貸越ありきの会社運営になる事は避けなければなりません。特に、当座貸越の契約期限における審査で、当座貸越が設定できなくなったり、当座貸越の枠が減額され、融資を返済する必要が生じた場合に、当座貸越ありきの会社運営では問題が顕在化してしまいます。

④ 保証付き融資⇔プロパー融資
信用保証協会の保証付き融資は、貸倒リスクの8割~10割を信用保証協会が負担するため、銀行は2~0割のリスク負担で融資をすることができます。プロパー融資は、銀行が10割のリスク負担をすることを鑑みると、保証付き融資は銀行にとって低リスクの融資と言えます(詳しくはこちら)。
保証付き融資には限度枠が設定されているため、安易に保証付き融資の枠を使わずに、良好な関係性を築きたい銀行に対して保証付き融資の枠を残しておくべきです。特に、10割保証の特別枠が設定された時や、保証協会に加えて自治体も関わる制度融資が設定された時には、良好な関係性を築きたい銀行に対して積極的に利用すべきです。とはいえ、背に腹は代えられない状況もあり、業績悪化時、新規開拓時など資金繰りに窮する場面では、スムーズに融資を実行してもらえる銀行から保証付き融資を利用していくべきです。

⑤ 借入本数を増やす⇔まとめる
ある銀行から1億10年で融資を受けたとします。5年経過後、残高5千万となった時に、銀行から追加融資の提案をされた際、Ⓐ5千万の追加融資を受けるケースⒷ1億の追加融資を受けて残高5千万を返済するケースとでは、資金繰りを考えた時にどちらが良いでしょうか。どちらの追加融資も10年期限とします。
ⒶもⒷも実行後のBS借入金の金額は1億で同じですが、Ⓐは借入本数が2本で毎年返済額が従前融資の1千万+追加融資の5百万=1千5百万、Ⓑは借入本数が1本で毎年返済額は追加融資の1千万となり、Ⓑの方が毎年の返済額が少なくて済みます。これは、返済期限の問題で、同じBS借入金の金額1億に対して、Ⓐは従前融資の返済期限が残5年と追加融資の返済期限が残10年である一方、Ⓑは追加融資の返済期限10年のみであるため、毎年の返済額に差が生じます。
銀行からすると基本的には返済が早いことを好みますので、Ⓐを提案することになりますが、会社としては資金繰りを考えるとⒷが得策となる場合が多いです。ですから、会社としては、上記のように折り返し融資を提案された際には、借入本数を減らすⒷを選択すべきです。仮に、メインバンクからⒷの選択をする場合にはリスケに該当すると言われるような事があれば、サブバンクに出向いて、借入本数が増えたからまとめて欲しいと提案することでメインバンクが動いてくれることもあるかもしれません。メインバンクもサブバンクも競合に融資を取られたくないと考えるからです。

⑥ 金利高い⇔金利低い
当たり前ですが、金利は高ければ高いほど銀行の利益につながります。そのことを理解したうえで、金利が高くても交渉せず、他の条件をのんでもらうことも一つの方法ではないでしょうか。仮に金利が高いと感じて交渉する場合にも、例えば日本銀行が公表している貸出約定平均金利や他行の金利を持ち出して高い理由を聞くなど、客観的な数字によって交渉することが重要です。

⑦ 連帯保証人あり・担保あり⇔なし
人的保証である連帯保証人を設定したり、物的保証である担保を設定することで、銀行は貸倒リスクをヘッジします。会社代表者は、会社にもしものことがあった場合に、会社の借入金を返済する義務が生じたり、私財を取られることを避けたいと考えます。他の交渉とは異なり、連帯保証人や担保の有無については、会社代表者としては譲れない交渉場面ですので、折れることなく自分の利益のために正当な交渉をすべきだと思います。この点については、経営者保証に関するガイドラインを参考に、①法人と経営者との明確な区分・分離、②財務基盤の強化、③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保ができていることを主張し、無担保無保証で融資を受けることができるように交渉することが重要です。注意すべき点として、物的保証の設定をする場合でも、将来の債務も保証することになる根保証の設定は避けるべきです。根保証は一度設定すると全ての借入を返済しない限り外すのは困難であり、事業承継やM&Aの場面において足かせとなるためです。

⑧ その他
その他、一般的に金額が大きい融資や、返済期間が短い融資の方が銀行に好まれること、IB手数料や振込手数料を交渉材料とするか否か、従業員の銀行口座を統一することを交渉材料とするか否か、積立預金するか否か、最終決裁者の同席を交渉時に依頼するか否かなど、細かい点は多くあります。
また、個人的には、銀行担当者が誰になるかが融資をする上でかなりの重要性を占めると感じています。担当者を変えてくれと依頼することはよほどのことがない限りすべきでなく(難しい)、数行と取引することで担当者リスクをヘッジすることが重要です。