2021年8月2日に施行された「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」により、所在不明株主に関する会社法の特例が創設され、所在不明株主の株式を競売等するために要する期間が5年から1年に短縮できるケースが認められました。
そこで、事業承継における所在不明株主についてまとめました。
所在不明株主とは
所在不明株主とは、株主名簿に記載はあるものの連絡が取れなくなり、所在が分からない株主の事を言います。
株主名簿に記載された住所にあてて発した通知が5年以上継続して到達せず、5年間配当も受領しない所在不明株主がいる場合、その保有株式を競売等(売却・自社株買)することができます(会社法197条)。株式を競売等し、所在が判明すれば代金支払、所在不明の場合は法務局に供託します。
なお、判例はありませんが、5年間無配当の場合も配当を受領していないと解されているようです。
所在不明株主と似たような概念で名義株主というものがありますが、名義株主は名前を借りただけの実体のない株主のことを指します。
事業承継において問題となる場合、名義株主かつ所在不明株主であるケースが往々にしてありますが、対応策を講じるにあたっては両者の問題点をそれぞれ整理する必要があります。
所在不明株主が生じる理由
所在不明株主が生じる理由はいくつかありますが、例えば下記の様なことが想定されます。
・株主の住所変更
・相続発生による株主の分散
・相続対策のために知人へ売却
・分散株の知人による買戻し
また、1990年の商法改正前は、株式会社設立に当たり、7人以上の発起人が必要であり、かつ各発起人が1株以上の株式を引き受ける必要があったため、1990年以前から続いている株式会社は、他人名義を用いた名義株主が設立のタイミングで数多く生じたと考えられます。加えて、それ以降の株主名簿の未更新により名義株主かつ所在不明株主が生じていることが考えられます。
所在不明株主・名義株主の弊害
所在不明株主や名義株主がいるとどのような弊害があるのでしょうか。
親族内承継をするにせよ、M&Aで親族外承継するにせよ、株主の整理と集約が必要です。特に親族外承継の場合は、株主が未整理であることを引継ぎ先(買い手)が嫌がるため、スムーズに事業承継することが難しくなります。所在不明株主や名義株主が株主の権利を主張し、口出しをする可能性が否定できないからです。少数株主が行使できる権利としては具体的に、
・株主名簿閲覧請求権(1株)
・株主代表訴訟提起権(1株)
・取締役会議事録閲覧請求権(1株)
・会計帳簿閲覧請求権(3%以上)
・役員解任の訴え(3%以上)
・株式買取請求権(一定条件のもと)
などがあり、事業承継前後に株主から権利を主張されるといかに面倒であるかは自明です。
対応方法
所在不明株主や名義株主とオーナーとの間で揉める恐れがある時は、弁護士への相談をお勧めします。
一般的な対応策として、所在不明株主は前述した通り、会社法上の手続きを取った上で株式の競売等を行うことが考えられます。名義株主は、名義株であることの確認を書面で取り、株主名簿や申告書別表2を書き換えます。名義株主の場合は、寝た子を起こすリスクがあるため状況に応じた対応が求められます。
さらに、所在不明株主や名義株主が少数株主である場合、特別支配株主による株式等売渡請求(会社法179条)や株式併合手続(会社法180条)を利用して株式を大株主に集約する方法(いわゆるスクイーズ・アウト)もあります。
株主名簿を作成更新する、(書面上だけではなく)定時株主総会を実際に開催通知することにより、所在不明株主を出さないための予防対策をとることが重要です。
また、1990年以前に開業している会社は所在不明株主や名義株主の存在可能性が特に高いため、株主の整理状況を確かめることが将来の事業承継に役立ちます。
所在不明株主に関する会社法の特例
冒頭に記載した通り、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)により、所在不明株主に関する会社法の特例が創設され、事業承継ニーズの高い株式会社に限り、都道府県知事の認定を受けることと一定の手続保障を前提に、所在不明株主の株式を競売等するために要する期間が5年から1年に短縮できるケースが認められました。
要件や申請方法については、中小企業庁のHPに記載があります。