何%の株式を譲渡すべきか

 

「何%の株式を譲渡すべきか」という問いかけは、中小M&Aおよび親族内承継の現場で頻繁に寄せられる質問です。
答えを考えるには、株式シェアと株主権利の関係を知り、何のために株式を譲渡するのか、株式譲渡後にどのように関与したいのかを整理することが重要です。

 

議決権比率と株主権利

議決権比率と株主権利の関係は下表のとおりです。
なお、持株比率と議決権比率は異なるため留意が必要です。1株につき1議決権が原則(会社法308①)ですが、以下の株式は例外的に議決権がないため、持株比率≠議決権比率となっている場合があるからです。
例外的に議決権を有しない株式:単元未満株式(会社法189①、会社法308①ただし書)、議決権制限種類株式(会社法108①三)、自己株式(会社法308②)、相互保有株式(会社法308①括弧書)

議決権比率 主な権利 具体的内容
90%以上 株式等売渡請求(179条)
2/3以上 株主総会特別決議が可能 定款変更、組織再編行為株式併合、減資、特定株主からの自己株式取得、解散決議、監査役解任
過半数 株主総会普通決議が可能 取締役選解任取締役報酬決定、剰余金の処分配当、自己株式取得、計算書類承認、監査役選任
50% 拒否権:株主総会普通決議の阻止
1/3超 拒否権:株主総会特別決議の阻止
10%以上 少数株主権 解散請求権(833条①)
3%以上 会計帳簿閲覧請求権(433条)
株主総会招集請求権(297条)
取締役監査役の解任請求権(854条)
1%以上 株主提案権(303条)
1株 単独株主権 株主代表訴訟提起権(847条)
取締役の違法行為差止請求権(360条)
株主総会・取締役会議事録閲覧謄写権(318条④、371条②)
定款・株主名簿閲覧謄写権(31条②、125条②一)

なお、上場会社の場合、議決権を行使しない株主が少なくないため、低い株式シェアで実質的に支配することができる点で非上場の中小企業とは異なることに留意が必要です。

 

どのように関与したいか

一般的には、議決権の過半数を確保することで経営の意思決定を主導でき、議決権の2/3以上を確保すれば拒否権を排除し、スクイーズ・アウトを実施するための支配権を得られます。しかし、必要な株式シェア比率は株式譲渡後にどのような関与を望むかによって変わってきます。
例えば、譲渡後に取締役として確実に残りたい場合には、過半数を保持しておく必要があります。M&Aの株式譲渡契約書で取締役選任を定めたとしても、実行されない可能性があるからです。契約違反を理由に損害賠償請求をすることはできますが、取締役になることは困難です。
また、拒否権という観点から、50%を所有することで普通決議を防ぎ、1/3超を所有することで特別決議を防ぐことができるため、50%を所有すること、1/3超を所有することも有用です。
なお、自身以外に賛同してくれる味方の株主がどれだけいるかで、株式シェアの分子が変わる点も考慮すべきです。自身が40%所有しており、味方の株主が20%所有している場合、実質合計で60%=過半数を所有していると考えることができます。ただし、たとえ親族でも将来的に敵対関係になってしまうこともあるため、原則は自身単独で行使したい権利までの株式シェアを保持することが良いと考えられます。

一般的に味方の株主を「安定株主」と言い、親族のほか、従業員や従業員持株会、取引⾦融機関や取引先、支配株主などが想定されます。

 

少数株主対策

最後に、100%譲渡をせずに少数株主が残る場合において、将来的に少数株主を排除する必要が生じた場合の対応策を整理します。
少数株主が比較的友好的な場合、自身か会社が適正な価格で買い取ることで円満に解決することを目指すべきです。
一方、敵対的な少数株主の場合、以下の方法によりスクイーズ・アウトを行うことを検討します。

  1. 特別支配株主による株式等売渡請求(会社法179条)
    議決権90%以上を有する特別支配株主は、すべての少数株主に株式の全部を自分に売り渡すことを請求し、強制的に株式を取得することができる。会社ではなく特別支配株主自身が株式を取得する点、株主総会が不要で取締役(会)決議で足りる点で使い勝手が良い方法。
  2. 株式併合手続(会社法180条)
    排除対象の少数株主が株式併合後に1株未満となるように株式併合割合を決め、株式併合後に売却代金を交付する方法。株主総会特別決議が必要。特別支配株主による株式等売渡請求と異なり、株式併合割合の調整により一部の少数株主を残すことが可能。

    なお、何らかの理由により上記方法での解決が困難な場合、煩雑な手続きを要しますが、下記の方法を検討します。

  3. 全部取得条項付種類株式(会社法171条)
    種類株式導入および定款変更に関する株主総会特別決議後、既に発行している普通株式のすべてを全部取得条項付種類株式に変更し、全部取得条項付種類株式の取得の対価が端株となるように別の種類株式を交付する方法。
  4. 現金交付株式交換(会社法768条①二)
    支配株主が会社の場合において、現金を対価とする株式交換を行う方法。

なお、敵対関係にある少数株主は、会計帳簿閲覧請求権等を駆使し、代表取締役への損害賠償請求したり、不透明支出等に対して過度な指摘をするなどの「嫌がらせ」をすることで高額な価格で株式を買い取らせる行為に走ることもあり、また、同様の狙いをもって少数株主から株式を買い取る業者も漸増しています。そのような場合には、こちらに記載した通り煩雑な手続きや長きにわたる裁判が待っていることもあるため、少数株主へは慎重に対応することが求められます。