令和7年度税制改正

 

例年であれば、年内に与党から公表される税制改正大綱が年明けに通常国会に提出され、3月末に税制改正法律案が成立・公布、4月1日に法律が施行されます。
しかし、今年度は与党が衆議院で過半数を獲得しておらず、単独で法案を成立させることができないため、税制改正法案が国会審議の過程で修正される可能性や通常のスケジュール通りに成立・公布・施行されない可能性があり、注目を集めていました。

そのような状況の中、先日令和7年2月4日に税制改正法律案が閣議決定され、国会に提出されました。結果として、例年と同様のスケジュールで閣議決定・国会提出が行われました。

 

法律案概要

「所得税法等の一部を改正する法律案」について 財務省 抜粋

物価上昇局面における税負担の調整及び就業調整対策の観点から、所得税の基礎控除の控除額及び給与所得控除の最低保障額の引上げ並びに大学生年代の子等に係る新たな控除の創設を行う。成長意欲の高い中小企業の設備投資を促進し地域経済に好循環を生み出すために、中小企業経営強化税制を拡充する。国際環境の変化等に対応するため、防衛力強化に係る財源確保のための税制措置、グローバル・ミニマム課税の法制化、外国人旅行者向け免税制度の見直し等を行う。これらにより、「賃上げと投資が牽引する成長型経済」への移行を実現し、経済社会の構造変化等に対応する。

 

令和7年度税制改正大綱の主要項目(資産税)

税目 項目 概要
資産税 法人版事業承継税制の役員就任要件緩和 後継者要件として、贈与の日まで3年以上継続して役員等であることが求められていたが、贈与の直前に役員等であることに要件緩和。
【適用時期】令和7年1月1日以後の贈与について適用
結婚・子育て資金の一括贈与の非課税措置の延長 令和9年3月31日まで2年間延長する。

資産税においては、法人版事業承継税制の特例措置における役員就任要件が実質的に廃止となることを除き、大きな改正はありませんでしたが、税制改正大綱の中で、「事業承継による世代交代の停滞や地域経済の成長への影響に係る懸念も踏まえ、事業承継のあり方については今後も検討する。」と記載があり、今後の特例措置の期限切れ後の新しい税制の動きに注目です。

 

令和7年度税制改正大綱の主要項目(資産税以外)

税目 項目 概要
所得税 基礎控除の見直し 基礎控除の額を48万円から58万円に10万円引上げる。
【適用時期】令和7年分の所得税から適用⇒その後、国会審議により修正 【2025/4/23追記】参照
給与所得控除の見直し 最低保障額を55万円から65万円に10万円引上げる。
【適用時期】令和7年分の所得税から適用
特定親族特別控除の創設 特定親族(生計を一にする年齢19歳以上23歳未満の親族で控除対象扶養親族に該当しないもの)に対する特別控除を創設。
【適用時期】令和7年分の所得税から適用
法人税 中小企業経営強化税制の拡充と延長 下記変更等を加えて令和9年3月31日まで2年間延長する。
売上100億円超を目指す中小企業を対象に、収益力強化設備(B類型)において、建物が対象資産に追加された。
中小企業等に対する軽減税率の一部変更と延長 所得800万円以下の法人税軽減税率(15%)について、下記変更等を加えて令和9年3月31日まで2年間延長する。
①     所得が10億超の場合は、税率17%に引上げ
②     グループ通算制度の適用法人を除外
【適用時期】令和7年4月1日以後開始事業年度から適用
消費税 外国人旅行者向け免税制度にリファンド方式を導入

 

免税対象物品について、課税で販売し、事後的に消費税相当額を返金するリファンド方式への見直しが行われる。
【適用時期】令和8年11月1日以後に行う免税対象物品の譲渡について適用
その他 防衛力強化に係る財源確保のための税制措置の創設 法人税額から500万円を控除した額を課税標準とする税率4%の新たな付加税を創設
【適用時期】令和7年4月1日以後開始事業年度から適用

連日報道された「103万円の壁」が「123万円の壁」に変わりました。令和7年分の所得税より、給与収入のみの方は、基礎控除58万+給与所得控除65万=給与収入123万までは所得税が課税されないことになります。ただし、住民税の基礎控除は現行の43万円のまま据え置きとなる見込みです。
なお、社会保険は「130万の壁」があり、配偶者の年収が130万以上になると社会保険の扶養から外れます。

 

その他の令和7年度税制改正大綱の項目

税目 項目
資産税 個人版事業承継税制の特例の事業従事要件の緩和
所得税

 

 

 

 

 

 

退職所得控除額の調整規定等の見直し
確定拠出年金制度の見直し
基礎控除等の見直しに伴い、同一生計配偶者、扶養親族、ひとり親の生計を一にする子、勤労学生等の所得要件引上げ、家内労働者の事業所得等の所得計算の特例の最低保障額の引上げ
生命保険料控除の拡充
住宅ローン控除、住宅リフォーム税制の延長
エンジェル税制の拡充
法人課税信託に係る所得税の課税の適正化
法人税

 

 

 

リース会計基準の変更に伴う措置
中小企業投資促進税制の適用期限の延長
非適格合併等により移転を受ける資産等に係る調整勘定の算定方法の明確化
企業版ふるさと納税の延長
その他 固定資産税の課税標準の特例措置について、見直しのうえ延長
グローバルミニマム課税について、国際最低課税残余額に対する法人税を創設
国内ミニマム課税への対応のため、国内最低課税額に対する法人税を創設
外国⼦会社合算税制の見直し
電子帳簿等保存制度の見直し

 

【2025/4/23追記】
令和7年2月4日に税制改正法案が閣議決定・国会提出された点については、例年通りのスケジュールで進行しました。しかし、その後の国会審議において法案が異例の修正を受け、令和7年3月4日に「基礎控除の特例」の創設を盛り込んだ与党の修正案が衆議院で可決されました。
税制改正法案が国会審議により修正されるのは稀なケースですが、最終的には令和7年3月31日に法案が成立・公布、4月1日に法律が施行され、最終的なスケジュールは例年通りとなりました。

税制改正大綱から修正された主な項目は、下記、所得税の基礎控除の見直しについてです。

税目 項目 概要
所得税 基礎控除の見直し 修正前:基礎控除の額を48万円から58万円に10万円引上げる。
【適用時期】令和7年分の所得税から適用

修正後:年収に応じて基礎控除の額を加算する基礎控除の特例が創設。合計所得金額に応じて下記のように変動する。
132万円以下:95万円
336万円以下:88万円(時限措置、令和9年分以後は58万円)
489万円以下:68万円(時限措置、令和9年分以後は58万円)
655万円以下:63万円(時限措置、令和9年分以後は58万円)
2,350万円以下:58万円
【適用時期】令和7年分の所得税から適用

この改正により、いわゆる「103万円の壁」は、税制改正大綱の段階では「123万円の壁」となる予定でしたが、修正を経て最終的に「160万円の壁」に引き上げられました。
具体的には、令和7年分の所得税より、給与収入のみの方は、基礎控除95万+給与所得控除65万=給与収入160万までは所得税が課税されないことになります。ただし、住民税の基礎控除は現行の43万円のまま据え置きです。