非上場株式の譲渡承認請求

 

多くの中小企業は、会社にとって望ましくない者が株主になる事を防ぐため、すべての株式に譲渡制限をかけており、株主が第三者に株式を譲渡する際には、株主総会(または取締役会)の承認が必要になります。

 

譲渡承認手続きの流れ

譲渡承認手続きの流れは、下図のとおりです。多くの場合は、承認されて譲渡実行となりますが、不承認となった場合には裁判になることもあります。ここ数年で少数株主から株式を買い取る業者が増えてきており、不承認のケースも漸増しています。

譲渡承認をしない場合、譲渡承認請求を受けてから協議終了までの期間は最大で2か月半程度になりますが、各手続きを期限に余裕をもたせて行う必要がある中で、弁護士や税理士等と協議しながら方針の決定・株価算定・供託・株主総会(取締役会)の開催・通知等を行う必要があるため、実際にはタイトなスケジュールになります。

 

供託金の計算

譲渡不承認のケースで買取請求がある場合、会社は株式買取資金として供託金を供託する必要があり、供託金の金額は一株当たり純資産額×株式数により計算します。具体的な計算方法は会社法施行規則第25条に定められています。
一株当たり純資産額の計算における算定基準日ですが、会社法施行規則第25条には「買取通知の日」であることが定められています。この点、買取通知にあたっては供託金を供託し、供託証明書を交付の上、買取通知をする必要がある一方で、供託金の計算における算定基準日は将来日付(または同日)である買取通知の日であるため、実務上計算ができないという問題が生じます。私が調べた限りこの点に関しての明確な記載等はありませんでしたので、買取通知の日から著しく純資産が乖離していないことを前提に、直前期末日や直前月末日を算定基準日にして計算を行う他ないものと考えます。

 

裁判となった場合の売買価格

譲渡不承認のケースにおいて当事者間で売買価格の協議が成立しない場合、裁判所が売買価格を決定します。売買価格については、「株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない」(会社法144条3項等)という抽象的な定めがあるのみで、評価方法等については裁判所の裁量に委ねられています。過去の判例を見ると、DCF・収益還元・配当還元・時価純資産・簿価純資産あたりの評価方法を、個別事情を考慮して加重平均した価格となっているようです。

 

買取請求をするその他のケース

譲渡承認請求における買取請求とは別に、会社の一定の行為について反対をする株主は、会社に株式買取請求をすることができます。これは少数株主の権利が侵害されるのを防ぐために会社法で認められている権利であり、具体的には、少数株主を追い出すスクイーズアウトの場面(株式併合や全部取得条項付き種類株式への変更)や、組織再編行為(合併や会社分割)に反対意見を持つ場面で買取請求をすることが想定されます。

これらの場合には、譲渡承認請求とは異なる会社法上の手続きが定められていたり、協議すべき売買価格や裁判所が採用する売買価格が譲渡承認請求とは異なる評価方法で決定されていたりする点等に留意が必要です。

 

最後に

譲渡承認手続きについて、敵対的な少数株主を前提として裁判となった場合をメインに記載しましたが、実務上は、裁判に持ち込む前に友好的に株式を買取ることが重要です。裁判所での価格決定の手続きを考えると、裁判に持ち込む前に税務上の株価より高い価格で買取った方が、コスト面でも、心理的な面でも良い結果となるケースがほとんどだと思います。実際に私が関与した案件では、敵対する株主同士の価格決定に裁判所が関与した結果、1年以上の年月と弁護士費用・株価算定費用を要しました。同様の案件に関与した専門家の話を聞いても、価格決定に裁判所が関与する場合、1年~2年程度の年月を要するのが通常のようです。友好的に株式を買取る方法を含めて、専門家へ早めの相談をすることが重要です。