非営利型一般社団法人

 

先般、非営利型一般社団法人によるクリニックの開設に携わることがあり、非営利型一般社団法人について調べていく中で、非営利型一般社団法人の可能性を感じるとともに、どこかで大きな規制が入るだろうという予感も強く感じました、(忘れないうちに)税務の面から非営利型一般社団法人について整理していこうと思います。

 

一般社団法人とは

・2008年12月1日施行の「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」により、一般社団法人という法人類型が登場し、法人格がある非営利団体を誰でも簡単に設立することができるようになりました。例えば、同じ非営利法人であるNPO法人よりも設立手続きがスムーズであり、事業内容を幅広く選択できます。

・非営利とは、「利益をあげてはいけない」という意味ではなく、「余剰利益を構成員で分配しない」ことであり、この点で余剰利益を株主という構成員に配当という形で分配することができる株式会社等の営利法人とは異なる特徴があります。

・また、一般社団法人の税務上の特徴として、一定の条件を満たせば収益事業課税、満たさなければ全所得課税が適用される点が挙げられます。

大きな区分 (公益認定を受けていない)
一般社団法人【非営利法人】
税務上の区分 非営利型 普通型
一定の条件
(非営利徹底型、共益型)
×
法人税法上の法人区分 公益法人等 普通法人
課税所得の範囲 収益事業課税 全所得課税

・一般社団法人の実務上面倒な点として、会費や寄附金や補助金などの対価性のない収入(=特定収入)を受け取っている場合、消費税の計算が少し複雑になることが挙げられます。特定収入割合が5%超になると、特定収入に係る課税仕入の税額を仕入税額控除から除く調整が必要になるためです。

・また、一般社団法人だと対象外となる補助金があることも地味に注意が必要です。例えば、ものづくり補助金や小規模事業者持続化補助金などは対象外となっています。

 

非営利型一般社団法人とは

・非営利型一般社団法人は、税務上は公益法人等に分類されるため、非営利型に該当すると、収益事業以外の所得が課税の対象外になります。従って、一般社団法人を会費や寄付金等を中心に運営していくことを想定している場合、税務上のメリットを大きく享受することができます。

・非営利型にはさらに次の2つの分類があり、どちらかの条件を満たせば、非営利型一般社団法人に該当することになります。

非営利徹底型 共益型
①      定款に剰余金の分配を行わない旨の定めがあること

②      定款に解散時の残余財産が公益法人等の一定の公益的な団体に帰属する旨の定めがあること

③      ①又は②の要件にある定款の定めに違反した行為(特定の個人または団体に特別の利益を与えることを含む)を行ったことがないこと

④      各理事について理事及びその親族等である理事の合計数が理事の総数の1/3以下であること

①      会員に共通する利益を図る活動を行うことを主たる目的としていること

②      定款に会員が負担すべき金銭の額(会費)の定め又はこの額を社員総会の決議により定める旨の定めがあること

③      主たる事業として収益事業を行っていないこと

④      定款に特定の個人または団体に剰余金の分配を行う旨の定めがないこと

⑤      定款に解散時の残余財産が特定の個人または団体(一定の公益的な団体等を除く)に帰属する旨の定めがないこと

⑥      特定の個人または団体に特別の利益を与えたことがないこと

⑦      各理事について理事及びその親族等である理事の合計数が理事の総数の1/3以下であること

そもそも、一般社団法人は非営利法人のため、一般社団・財団法人法により、剰余金の分配ができないこととされていますが、行政が監督する仕組みになっていないため、収益事業課税の適用に当たって、税法により、改めて上記のような非営利性の要件を定めています。

・非営利型となり、収益事業課税の税務メリットを受けるにあたって留意すべき点は、非営利徹底型・共益型に共通する条件である、特定の個人または団体に特別の利益を与えたと認定されないことです。特定の個人または団体に特別の利益を与えたと認定され、非営利型を否認されると、収益事業課税から全所得課税になり、課税の対象外だったものが課税の対象となり、追徴課税が発生することになります。怖いことに、非営利型が否認されると、その時点から全所得課税になるだけでなく、以前の課税対象外となっていた留保利益まで課税を受けることになります。特定の個人または団体に特別の利益の定義は法人税基本通達1-1-8に以下のように定められていますが、当然のごとく具体的な基準は示されていません。基本通達の解説本である「法人税基本通達逐条解説」においても、社会通念上の判断という記載に終始しています。個人的には、この特別の利益供与に該当しないかどうかに怯えながら非営利型一般社団法人を運営していくということが一番厄介なことだと感じています。(特に専門家の立場からすると、お墨付きを与えることができないことにもどかしさを感じます。ただし、収益事業だけをやっている非営利型一般社団法人の場合には、非営利型を否認されたとしても税務上のデメリットはないためそこまでセンシティブにならなくても良いのではないかと考えています。)

法人税基本通達 1-1-8 非営利型法人における特別の利益の意義 (一部抜粋)

(1)    法人が、特定の個人又は団体に対し、その所有する土地、建物その他の資産を無償又は通常よりも低い賃貸料で貸し付けていること。

(2)    法人が、特定の個人又は団体に対し、無利息又は通常よりも低い利率で金銭を貸し付けていること。

(3)    法人が、特定の個人又は団体に対し、その所有する資産を無償又は通常よりも低い対価で譲渡していること。

(4)    法人が、特定の個人又は団体から通常よりも高い賃借料により土地、建物その他の資産を賃借していること又は通常よりも高い利率により金銭を借り受けていること。

(5)    法人が、特定の個人又は団体の所有する資産を通常よりも高い対価で譲り受けていること又は法人の事業の用に供すると認められない資産を取得していること。

(6)    法人が、特定の個人に対し、過大な給与等を支給していること。

 

非営利型一般社団法人によるクリニックの設立

・まず、クリニックを一般社団法人で設立するには非営利型の必要があります。理由は、医療法第7条第6項に、営利を目的とする者には第1項(医師等以外の者が診療所を開設しようとするときの都道府県知事の許可)の許可を与えないことができると定められているからです。

医療法 第7条第6項

営利を目的として、病院、診療所又は助産所を開設しようとする者に対しては、第4項の規定にかかわらず、第1項の許可を与えないことができる。

・さらに、現実的には非営利型のうち、非営利徹底型の条件を満たす必要があります。理由は、共益型の条件に、「③主たる事業として収益事業を行っていないこと」が定めされており、クリニックが行う医療保険業は、収益事業に該当するからです。つまり、クリニックを一般社団法人で設立するには下表の赤字の区分に該当する必要があります。

大きな区分 (公益認定を受けていない)
一般社団法人【非営利法人】
税務上の区分 非営利型 普通型
一定の条件
非営利徹底型、共益型)
×
法人税法上の法人区分 公益法人等 普通法人
課税所得の範囲 収益事業課税 全所得課税

・クリニックは非営利型でしか運営できないため、非営利型を否認されると実質廃業となってしまいます。ここで、少し前に議論した特定の個人または団体に特別の利益を与えた、に該当して非営利型を否認されないかをしっかりと確認する必要が生じます。特に、「(6)法人が、特定の個人に対し、過大な給与等を支給していること。」に該当するか否かの判断が何とも難しいところになります。理事の報酬が論点になりますが、この点に関しては、個人的には医療法人を基準に考えるという結論に至りました。詳細は割愛します。

・なお、医療法人ではなく非営利型一般社団法人で運営する理由は、①開設が楽、②代表理事が医師の必要がない⇒開設時に保健所では代表理事に医師が推奨される⇒開設後に変更する場合は保健所の許可が不要で登記のみで可能、③規制を受けない(業務の種類⇒目的を変えられる、厚労省への報告義務、定款変更の認可等)、④公益化すると税制上のメリットが大きい、というところを認識しています。一方で、非営利型一般社団法人は理事の親族要件があるため、同族経営を望む場合には医療法人が適していると言えます。

 

非営利型一般社団法人のM&A

・最後に、非営利型一般社団法人のM&Aについて触れたいと思います。当たり前のことですが、非営利型一般社団法人を営利目的で使おうとしても制度上は難しい点は理解しておくべきです。理由は、①配当できない、②解散時に国等に帰属、③理事親族関係1/3以下があるためです。

・非営利型一般社団法人の場合は、株式会社のM&Aのように株式の譲渡がないので、退職金を支払い、役員を総入れ替えすることで経営権を移転します。退職金が高額になることが予想されるため、税務上の損金不算入となる「不相当に高額」とならないようにすること、同時に「特定の個人または団体に特別の利益」に該当して非営利型を否認されないことが税務上の留意点になります。