SPCを利用したM&Aの税務上の留意点

 

M&Aでは、買手が対象会社の株式を直接取得するのではなく、買収のために設立したSPCを通じて取得することがあります。
特に、PEファンドなどが借入金を活用して企業を買収するLBOでは、買収主体となるSPCを設立し、そのSPCが対象会社の株式を取得する手法が一般的に用いられます。
PEファンドは、投資先の選定からM&A成立後の統合プロセスであるPMIに至るまで、企業価値の向上に関するノウハウを蓄積しています。そのため、近年では、中小企業の事業承継や成長支援の担い手としても、PEファンドによる投資が活用されています。

SPCを利用したM&Aでは、買収資金の調達や投資家間の関係を整理しやすくなる一方、SPCの資本金・外形標準課税・対象会社の中小法人判定・合併時の繰越欠損金など、複数の税務論点が生じます。本記事では、買収目的SPCの基本的な仕組みを確認したうえで、PEファンドが関与する場合を含めた税務上の留意点を整理します。

 

SPCを利用したM&Aの仕組み

買収目的SPCを利用する場合の一般的な流れは、次のとおりです。

  1. 買手またはPEファンドが、案件ごとにSPCを設立する
  2. 買手等がSPCに出資する
  3. SPCが金融機関から買収資金を借り入れる
  4. SPCが売手から対象会社の株式を取得する
  5. 対象会社からの配当や、合併後の事業収益を原資として借入金を返済する

借入金を活用して対象会社を買収する手法は、一般にLBO、レバレッジド・バイアウトと呼ばれます。SPCが対象会社から受け取る配当は、株式の保有関係や保有期間などの要件を満たせば、受取配当等の益金不算入制度の対象となります。一方、SPCが金融機関へ支払う利息は、原則としてSPCの損金となります。その結果、SPCには税務上の欠損金が生じるものの、対象会社の事業利益とは相殺できない状態になることがあります。そこで、買収後にSPCと対象会社を合併し、対象会社の事業利益と買収借入に係る支払利息を同一法人内で計上する方法が検討されます。
もっとも、合併は必須ではありません。許認可の承継関係や事務負担を考慮し、SPCを持株会社として残し、対象会社からの配当で借入金を返済するスキームを選択する場合もあります。

 

SPCを利用する場合の税務上の留意点

  • SPCの資本金によって外形標準課税が生じることがある
    SPCは、買収資金の一部を買手等からの出資によって調達します。そのため、設立時の資本金や資本剰余金が多額になることがあります。事業年度末の資本金が1億円を超える法人等は、原則として法人事業税の外形標準課税の対象になります。外形標準課税では、所得だけでなく付加価値額や資本金等の額にも課税されるため、SPCが欠損となっていても、税負担が生じる可能性があります。
  • 買収によって対象会社が中小法人向け税制優遇を失うことがある
    対象会社自身の資本金が1億円以下であっても、買収後の株主構成によっては、中小法人向けの税制を利用できなくなることがあります。例えば、資本金5億円以上の法人による完全支配関係がある普通法人は、一定の中小法人向け税制優遇の対象外となります。
    影響を受ける可能性がある制度には、法人税率の軽減措置、繰越欠損金の控除限度、交際費の定額控除、貸倒引当金の損金算入制度などがあります。したがって、対象会社の資本金だけを見るのではなく、対象会社を直接保有するSPC、SPCの親会社、PEファンドや共同投資家、最終的な出資者の関係を確認しなければなりません。なお、後述するように、PEファンドが投資事業有限責任組合(LPS)である場合、ファンド自体には株式会社のような資本金がありません。この場合は、制度ごとに株式の所有関係や組合員の属性を確認します。
  • 合併時には繰越欠損金の利用制限を確認する
    SPCが対象会社の株式を100%取得した後に両社が合併する場合、一定の要件を満たせば、税務上の適格合併となります。ただし、適格合併に該当することと、SPCや対象会社の繰越欠損金を制限なく利用できることは別の問題です。買収により支配関係が生じてから5年以内に合併する場合には、被合併法人の繰越欠損金の引継制限や、合併法人自身の繰越欠損金の使用制限が問題になることがあります。一定の「みなし共同事業要件」を満たせば制限を受けない場合がありますが、買収のために設立されたSPCは独自の事業を行っていないため、対象会社との事業関連性を満たすことが難しいケースがあります。
    また、特定資産に係る譲渡等損失額の損金算入が制限される可能性もあります。合併時期、存続法人、対象会社の繰越欠損金、含み損資産などを踏まえた個別の検討が必要です。
  • 既存の休眠会社をSPCに使う場合は過去の状況を確認する
    SPCは、買収案件のために新しく設立することが一般的です。既存の休眠会社を買収目的SPCとして利用すると、過去の事業や繰越欠損金、含み損資産の状況によって、欠損等法人に関する制限が適用される可能性があります。既存会社を利用する場合には、少なくとも過去の株主構成、事業内容、税務申告、繰越欠損金、保有資産を確認する必要があります。設立手続の省略だけを目的として、過去の状況が不明な法人を利用することは慎重に判断すべきです。

 

PEファンドがSPCを利用する場合

PEファンドによる買収でも、案件ごとに買収目的SPCを設立する構造が一般的です。基本的な資本関係は、次のようになります。

投資家 → PEファンド → 買収目的SPC → 対象会社

PEファンドは投資家から資金を集めて投資を行う仕組みであり、SPCは特定の対象会社を買収するための会社です。両者は同じものではなく、PEファンドが投資主体となり、その下に案件ごとのSPCを設立します。
国内のPEファンドでは、投資事業有限責任組合(LPS)が利用されることがあります。LPSは法人格を持たず、業務を執行する無限責任組合員(GP)と、投資家である有限責任組合員(LP)によって構成されます。株式会社ではないため、LPS自体には法人税法上の資本金はありません。したがって、PEファンドが関与する案件について、単純に「ファンドの資本金が大きいため、対象会社は中小法人向け特例を利用できない」と判断することは適切ではありません。一方で、ファンド自体に資本金がないからといって、対象会社がすべての中小法人向け税制を利用できるとも限りません。
また、法人税の軽減税率、繰越欠損金、交際費などに関する「中小法人」の判定と、研究開発税制や設備投資税制などに関する「中小企業者」の判定では、基準が異なることにも注意が必要です。国税庁の質疑応答事例では、大規模法人である複数の組合員が合計で株式の3分の2以上を所有することとなるケースについて、投資先企業は中小企業者に該当しないとされています。(参考
PEファンド案件では、LPSを構成するLPの出資割合や、法人LPの資本金等も制度ごとに確認する必要があります。

 

まとめ

PEファンドによるLBOでは、案件ごとに買収目的SPCを設立し、ファンドからの出資と金融機関からの借入れを組み合わせて対象会社の株式を取得する構造が一般的です。買収後は、SPCを持株会社として残す場合のほか、SPCと対象会社を合併することがあります。ただし、合併は必須ではありません。許認可や重要契約への影響、金融機関との合意、対象会社の繰越欠損金や含み損などを踏まえて判断する必要があります。

また、PEファンドがLPSで組成されている場合、ファンド自体には法人税法上の資本金がありません。そのため、PEファンドの資本金によって対象会社の中小法人向け税制を判定するのではなく、SPCの資本金、SPCの上位に大法人が存在するか、LPSの組合員構成などを制度ごとに確認します。「中小法人」判定と、「中小企業者」判定では、基準が異なる点にも注意が必要です。

買収目的SPCを利用するM&Aでは、買収後に税務上の問題が判明しても、資本金や資本関係、合併スキームを変更することが難しい場合があります。SPCの設立前または買収スキームの検討段階で、買収後の資本関係と利用予定の税制を整理しておくことが重要です。